FDM方式の3Dプリンターを使っていて、なんとなく調子が悪い。綺麗に出力できなくなった。
そんな課題に直面したときに、一番最初に疑うべきは、フィラメントの劣化です。
特に、一般的に多くの方が使っているPLAやABSフィラメントは吸湿しやすく、油断していると直ぐに劣化してしまうので、本稿を参考に対策してみてください。
フィラメントが吸湿するとどうなるか?
3Dプリンターのフィラメントに使用される、ABS、PLAなどの樹脂材料は、吸湿しやすい性質があります。表面に付着した水分は比較的、簡単に乾燥できます。しかし、フィラメントを長時間空気にさらしてしまい、内部に開いた微細孔にまで水分が入り込むと、簡単には乾燥できなくなってしまいます。
フィラメントが吸湿すると下記のような症状がでます。
症状 | 原因 |
---|---|
印刷中に「パチパチ」音がする。 | フィラメントをノズル部で加熱溶解するときに内部の水分が蒸発、発泡するときに音が出る。 |
印刷中に「ガ、ガ」という引っかかったような異音がする。 | 気泡の影響で、樹脂ノズル内の圧力が高くなり、押し出し負荷が増加、モータに負荷がかかる。 |
印刷が途中で止まる。 | 押し出し負荷が高すぎると、ノズルが詰まる。無理に押し出そうとして、樹脂が折れることもある。 |
造形物が糸を引いている。 | フィラメントが加水分解され、樹脂の粘度が下がる。 |
造形物の表面にブツブツがある。ボソボソになる。 | 気泡が造形物に孔を開ける。 |
造形物がプリントベッドに定着せずに、反ってしまう。 | 気泡の影響で、ベッドとの接触不良が発生する。 |
造形物の層がずれる。 | 気泡の影響で、層間の接着不良が発生する。 |
フィラメント吸湿対策 ① 乾燥させる
フィラメントドライヤーを導入しよう
オーブンで焼く、フードドライヤーを使う、布団乾燥機を使うなど、ちまたでは色々な方法が紹介されていますが、正直、イマイチだと思います。筆者が実践して、最も安定して効果的だったのは、「フィラメントドライヤー」です。
3Dプリンターフィラメント専用の乾燥機なので、使い方も簡単、購入してそのまま使用できます。
SUNLU Filament Dryer S2 改良版
これからフィラメントドライヤーを導入する方にオススメするのは、「SUNLU Filament Dryer S2 改良版」です。
製品サイズ | 高さ 265mm x 幅 274mm x 奥行き 118mm |
最大容量 | φ210 x 86(H)mm (1000g巻 x 1巻) |
作業想定環境 | 環境温度: 20℃~35℃ |
相対湿度: ≦90 | |
温度 | 35℃~70℃ |
液晶ディスプレイ | 6.4インチ液晶ディスプレイ |
対応フィラメント直径 | 1.75mm / 2.85mm |
おすすめポイント1. 加熱ムラが少なく高温加熱できる
(出所)SUNSTELLA
(出所)GREEN FUNDING
なんといっても、最大のおすすめポイントはフィラメントを360°から最高70℃の高温で加熱できることです。筆者は、S2の前進機に相当するS1を使っていますが、S1は、最高50℃までしか対応していません。加熱パワー不足を感じることも多く、しっかりS2で改善されていて素晴らしいです。
おすすめポイント2. 空気の循環で乾燥力アップ(改良版のみ)
意外と重要なのが、ファンを搭載していることです。加熱乾燥させる際に、空気を循環させないと熱の対流が無いため、どれだけフィラメントを均一に加熱したとしても、効率が上がりません。また、結露防止の観点でもファンを搭載していた方が良いです。
購入される際は、改良版かしっかりと確認しましょう!
フィラメント吸湿対策 ② 乾燥した状態で保存
せっかく乾燥させたフィラメントも保存状態が悪いと、また吸湿してしまいます。本稿を参考に適切に保存しましょう。
保存袋を用意しよう
最適は食品圧縮袋
フィラメントを乾燥状態で保管するのに最適なのは、ずばり「食品用圧縮袋」です。
(出所)ORICON NEWS
身近なところだと100円ショップのセリアで売っています。本来は、食品を脱気圧縮して保存するための袋ですが、フィラメントの保管に最適です。
完全な真空状態までは脱気できませんが、大部分を脱気できますので、フィラメントの吸湿を防ぐには十分です。
フィラメントのサイズはおおよそ24cm×24cmくらいです。
セリアで売っている袋の場合、大きいほうのサイズ(写真左:縦約34cm×横約30cm)のみ、フィラメントがすっぽり入る大きさなので、小さい方を購入しないように注意してください。
ダイソーなどほかの100円ショップでも類似品があるかもしれません。また、Amazonなどのネットショップでも類似品を購入できます。電動ポンプもあるので、手軽に脱気したい方は、そちらを購入されると良いでしょう。
乾燥剤を用意しよう
保管するときは、乾燥剤とセットで保管することが必要です。
大容量のシリカゲルを入手
乾燥といえば、シリカゲルです。おすすめは坂本石灰工業所の大容量シリカゲルです。一応、フライパン等で加熱すれば、再利用できますが、安価なので使い捨てでも良いでしょう。
シリカゲル容器は3Dプリンタで印刷
購入したシリカゲルを入れるのにちょうどよい容器がありますので、3Dプリンターで印刷します。容器は、以前の記事で紹介したThingiverseで見つけました。大体のメーカーのフィラメントのスプールに収まるサイズで、小さな粒のシリカゲルでも漏れることがないので、非常に良いです。
フィラメントを保管しよう
①フィラメントをフィラメントドライヤーでしっかりと乾燥させます。
②シリカゲルをシリカゲル保管容器に入れます。
容器いっぱいに入れると、蓋の開閉時にこぼれる可能性があるので、入れすぎ注意です。
③シリカゲル保管容器をフィラメントのスプールの穴に入れます。
④フィラメントのスプールの穴にシリカゲル保管容器が入った状態で食品用圧縮袋に入れて封をします。
しっかりとチャックを締めましょう。
⑤手動ポンプ(または電動ポンプ)にて脱気します。
あまり脱気しすぎると、袋にダメージが入るので、ある程度でOKです。
シリカゲルが入っているので、多少、空気が残っていても吸湿する心配はないです。
最終的にこんな感じになります。
冬場は比較的に乾燥しているので、1週間ほど空気にさらしていても、あんまり吸湿しませんが、梅雨時期などは、吸湿しやすいです。こまめに乾燥と保管を心がけましょう。
まとめ
フィラメントドライヤーと食品用圧縮袋を使うだけで、簡単にフィラメントが吸湿することなく保管できます。慣れてくると、色んなカラーのフィラメントや素材を使うようになり、どうしても使いかけフィラメントが増えてしまい、吸湿対策も必須になってくると思います。フィラメントを長持ちさせて、3Dプリンターのある生活を楽しみましょう!